いなるかな、    
その
偽善の福音

【中編】







悩んだ挙句、
アレルヤは自分の手で超兵達を解放することに決意し、
スメラギの部屋へ向かった。

人革連の超兵機関を「戦争を幇助する存在」として
武力介入するというミッションプランの提出と、自らの過去を報告した。


「見させてもらったわ。ヴェーダもこの作戦を推奨してる。・・でもいいの?」
「かまいません。」
「もう一人の貴方はなんて?」
「言うまでもありません。・・自分の過去くらい、自分で向き合います。」




------賽は投げられた。
進言したミッションプランはヴェーダにも受け入れられ、
もう一つの武力介入行動と同時に実行される事になった。
刹那とロックオンは南アフリカの紛争地区に武力介入。
そしてアレルヤとティエリアが人革連の超兵特務機関の主要施設のあるコロニーへ。



『キュリオス、カタパルトデッキへ移動。』


出撃前のこの瞬間。
いつも緊張感が訪れるが、今日は格別の緊張感に包まれている。

「大丈夫。今度こそ・・・自分で決めた事だから」

『操舵権をアレルヤ・ハプティズムに委譲します』
「了解。アレルヤ・ハプティズム、人革連・超兵特務機関へ武力介入を開始。  ・・・出ます!」









人類革新連盟 スペースコロニー『全球』
その全容は一部のものにしか知られていない。
超兵特務機関が所有する研究施設が聳え立ち、
その中には実験体になる孤児達が収容されている。
「まさか此処に戻ってくる事になるとは・・」
二度とないと思っていただけに、少しばかり感慨が沸く。
だが、物思いに浸る余裕もなく、予測どおり迎撃部隊のMSがやってきた。

「ミッション通り、ここは引き受ける。目標を叩け。」

通信が入り、ティエリアの言葉が聞こえる。
モニタを見やると、いつもと変わらないティエリアが無表情にこちらを見ている。
それなのに・・何だか、いつもと違って聞こえるのは気のせいか。
ティエリアはきっと、ミッションの内容だけでなく僕の過去も知っただろう。
そんなこと位で態度を変えたりするような男じゃないと分かってるけど、
心なしかいつも感じる棘のようなものを感じない。
そんな些細な事まで自分の都合のいいように感じてしまう自身がおかしくて。
無意識に苦笑を浮かべつつ答える。

「・・・・感謝するよ」





スペースコロニー内での戦闘行為は国際条約で禁止されている。
「スメラギさんの予測どおり、コロニー内での反撃はない・・・。」


その瞬間。
ある一点の方角から甲高い悲鳴がアレルヤの頭に響いてきた。


「!!!くっ・・居る・・僕の同類が・・・あの忌まわしい場所に・・・!!」


目の前に見えてきたのは、忘れたくても忘れられない研究施設。
さっきよりも悲鳴が増えて、頭が割れそうだ。



『うゎーー!死にたくないよーー!!』
『助けて!誰か助けて!!』



狂ったように流れ込む子供達の悲鳴に、
トリガーの指が震えて引き金が引けなくなっていた。

「こ・・殺す必要があるのか・・?そうだ、彼等を保護して・・・」



『甘いな』



断罪をする神のようにきっぱりと、断言するその声は・・

「ハレルヤ!!」

何を思っていたのか、先日言い合って以来呼びかけても返事がなかった。
それでも常に、気配は感じていた。
いつも、すぐ傍に居るハレルヤ。

『どーやって保護する?どーやって育てる??』
「でも、このままじゃ彼等が余りにも不幸だ・・!」

そうだ。望まぬまま人体改造などされ、何も分からぬままに殺される・・・
生きていれば、楽しい出来事があるかもしれない。
愛する人に出会えて幸せになれるかもしれない。
だから、ここで自分が彼等を救ってあげれば・・・!

『・・・不幸?ハッ!不幸だって??』

そう思い募ったアレルヤの考えを見透かしたように、ハレルヤの嘲笑が響いた。

『奴等は自分が不幸だなんて思ってねぇーよ。』
「いつかそう思うようになる・・」


自分がそう思っているように。
今現在の自分の状況を幸か不幸かで断定することは難しいだろう。
だが、超人機関の時にアレルヤを縛っていた鎖と違い、
ソレスタルビーイングという鎖はアレルヤに少なくとも二つのものを許してくれていた。

一つは、今回のように自分の未来を切り開く為に許された若干の自由。
そして、同じ鎖を持ち運命を共にする仲間という存在。

深く付き合うわけではなく、最初は不安で全く信用していなかった。
だが、共に過ごすうちに彼等の事情や個性が見えてきて、
アレルヤは時々笑顔になれた。
ただの戦闘兵器だった自分もわずかだけど変化出来たのだ。
きっとあそこにいる子供達だって・・という気持ちを拭えない。





『じゃァ、ティエレンに乗っていた女は自分が不幸だと感じているのか?』
「!!!!!」
『そーじゃないだろ?独りよがりの考えを相手に押し付けんな。  
どんな小綺麗な言葉を並べ立てても、お前の優しさは偽善だ。
 優しい振りして自分が満足したいだけなんだよ!』



「違う!」と叫びたかった。
でも、頭のどこかでハレルヤの言葉もまた真実だと自分は思ってしまっている。
衝撃を受けたアレルヤの脳裏にハレルヤの容赦ない言葉が突き刺さる。

『そして、いつか俺等を殺しに来る!』
・・・あの、ティエレンの兵士のように・・・・・?
『それとも何か?又オレに頼るのか?』
「!!」
『自分がやりたくないことにフタをして、自分は悪くなかったとでも言うのか?』
「ハレルヤ・・・・」

ハレルヤの声は忌々しげな響きに満ちているのに、どこか苦痛を抑えてるようなカンジだった。

『オレはやるぜ?他人なんざどーでもいい。オレはオレという存在を守る為に戦う!!!』
「そんなこと・・」
『ならなぜお前はここに来た?』
「僕はソレスタルビーイングとして・・・」
『殺しに来たんだろ?』
「違う!!ガンダムマイスターとして・・っ!」
『立場で人を殺すのかよ?!』

「!!!」


立場で人を殺す・・・??
僕はガンダムマイスターとして、ミッションを遂行する為に・・・・
この施設を破壊しなければならないミッションだから・・・・
ここは戦争を幇助する施設だから・・・
ソレスタルビーイングは戦争根絶の為に力を振るうのだから・・・







・・・・・・本当に?







戦争で罪のない人間が死ぬのは嫌だ。
こんな戦争がなくなればいい。
戦争をなくす為に僕はガンダムに乗った。
僕が此処を破壊すれば戦争への憂いが一つ消える。





・・・本当に!?





では罪のないあの子達は・・?!
僕に罪はないのか・・?!
本当に?
分からない!!

『引き金くらいエゴで引けぇ!!己のエゴで引け------!!』

ヤメロ・・分からない・・・やめてくれ・・!!
ハレルヤ!止めてくれ・・!!!


「う・・撃ちたくない・・ッツ!!!」

『目を逸らすな、アレルヤァ-------ッ!!!』
「う・うわあああああああァァァ---------ッ!!!!!」


無慈悲なハレルヤに促されるように、トリガーを引いた。

炎上し、爆発音と共に崩れ去る施設を見た瞬間。
アレルヤは現実から逃避した。


「ヒャハハハ・・よくやった!!それでこそオレの分身・・」

意識が闇に沈む途中、ハレルヤの奇妙な波動の声が聞こえた。
それは楽しみと、安堵と・・・・・・苦しみ・・・・だろうか。

『ハレルヤ・・・なぜ君がそんな風に感じる・・・?』

そう疑問に思いつつも、そこで意識を手放した----------







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