追憶と、    
人形









「まぁ、よろしく頼むわ。可愛い教官さん!」
「茶化すな!!!!」




告げられた言葉に反射的に怒鳴ってしまったが、
それはぐさりと刺さった気がした。

前にも・・同じ顔、同じ声に同じ言葉を言われた事がある・・・・。

「可愛い」と。








あれは・・・4年前。
イオリアの計画を歪めてしまい、苛立ちと焦りからMissスメラギを責めたところ
ロックオンから「お前にも責任がないわけじゃないだろう」と至極正論を言われ
納得できないまま部屋を出たときだ・・・。
ドアが閉まる直前に、漏れ聞こえたロックオンの言葉。


「かーわいいよなぁ。生真面目で・・・・」


途中からは聞こえなかったが、明らかに声が笑っていて、侮辱されたのだと思っていた。





なぜ、思い出してしまったのだろう。
あの男は、自分の知る「ロックオン」じゃない。
「あの人」はもう・・・ここには居ない。
4年前のあの日・・自分の手の届かない場所へ去ってしまったはずなのに。





・・・・・ロックオン=ストラトスとして現れた男は、あの人の”弟”だと言った。
本名は”ライル=ディランディ”・・・なのだと。


だが。
一瞬、戻ってきてくれたのかと思った。
本当は死んでなどいないのだと、思いたかった。


「あの人」と同じ顔。
「あの人」と同じ声。
「あの人」と同じ姿。


・・・それなのに、自分を知らないと平然と言う。
やはりあの男は「あの人」ではない。
しかし、その事実がやけに苦しいのは何故なのか・・・。

なんでもない顔をして彼「ライル」と接するのは最初、必要以上に気力がいった。
だが次第に慣れてきて、「あの人」とは別人として接していたのに・・・・・




「MS戦闘の経験は?」
「あるわけないだろ?」
「ド素人を連れてきたのか、刹那は・・!」



「まぁ、そう言うなって。可愛い教官さん」







・・・・・・・どうしてこんなにも似ているのか。
こんなふとした瞬間に「あの人」の面影がありすぎて、胸に何かが刺さる。

これは『罰』なのだろうか・・・?
「あの人」の瞳から光を奪ってしまった自分への。
ならば甘んじて受けねばならない・・・・




しかし。
気が付くとライルの姿が視界に入ってくる。
”苦しみ”と同時に”安堵”を覚える。
あの姿とまた再び戦えるという事実が、自分にプラスの感情を引き起こしてるのを感じる。
自分には人間で言う「心」というものがないはずだが、
「あの人」を失った時、確かにそれは存在した。

もう二度は失いたくない。
自分の中に渦巻く不可解なものはひとまずフタをして置こう。
まずは失わない為に教えることが山ほどある。


・・・そこから、始めよう。




END





#2で再会した時の「あの男はあの人じゃない」って台詞に
どんだけティエがニールに囚われているかが痛感できたので、
#3でニールと同じようにティエを「可愛い」と言ったライルの台詞で
思いついた話です。
ニールじゃないって分かってるけど、ライルを気にしたらいいのに!
ライルとニールは姿形だけじゃなくて根っこも似てたらいいのにな・・
性格は違う方がいいけど。