【南十字星の奇跡 3】
心の中で願いを叫び、
ぎゅっと目をつぶったその時。
海の方から強い一陣の風が吹き荒れて、私達を凪いでいきました。
「え・・?わ・・・っ!!!」
「ハルちゃん・・・!!!」
あまりの強さに飛ばされそうになると、一瞬早く那月くんが手を掴んでくれたおかげで吹っ飛ばずにすみました。
目も開けられずに踏ん張ると、次の瞬間、風がなくなり全ての音も消えました。
「あれ・・?」
不思議な感覚のまま目を開けると、那月くんの服が目の前に。
近いです。
(あれ・・こんな傍にいたっけ??)
後ろの方にも何か気配があって、那月くんが全身でかばってくれたのだと思いました。
でも、目を上げると目の前に那月くんが居ます。
しかも動きが止まって、何かを凝視していました。
彼の視線の先を追ってみて・・・・・息が止まりました。
「さ・・・つき、くん・・・?」
そこには、砂月くんが腕を広げて、私達二人をかばうようにして立っていました。
眼鏡のない那月くんの顔。
でもその表情は明らかに砂月くんです。
「・・・あ?・・・・え・・?????」
私の声を聞いた砂月くんもこちらを見ましたが、その途端驚愕の表情を浮かべました。
「俺が・・・見える・・のか?・・ってか、なんで俺・・・・」
神様・・・・・!!!
音楽の神様が、願いを聞いてくれたのでしょうか?
砂月くんが、目に見える状態で存在しています。
前のように那月くんと代わるのでなく、那月くんもそこに居ます。
ただ、砂月くんの姿は少し向こう側が透けているので、私の妄想なのでしょうか。
でも声ははっきり聞こえます・・・!
「さ・・・ちゃん・・・さっちゃん!!!」
「・・那月・・・」
「!!!!!!」
目の前の出来事が現実なのか幻なのか。
おそるおそる呼びかけた那月くんの声に、はっきりとした砂月くんの声が答えた瞬間。
那月くんは砂月くんに抱きついていました。
「な・・・なつき・・・・なんで・・俺は」
「なんでもいい!さっちゃん・・・さっちゃん・・!」
自身の存在に困惑する砂月くんを遮り、ぎゅうっと抱きしめてその存在を確かめる那月くん。
その光景を見て、私は嬉しさに涙がこぼれてしまいました。
なんでもいい。
奇跡でも神様のいたずらでも。
夢でなければいい。
ひょっとしたら、目が覚めてしまうのではと何度もほっぺたをつねってみましたが、
痛いばかりで目の前にいる砂月くんは居なくなりません。
(よかった・・・!夢じゃない・・・・!)
「おい、春歌・・お前はいつからそんなにマゾになったんだ?何度もつねったりして」
私の行為に気が付いた砂月くんが苦笑しています。
「夢ならどうしようかと思って・・でも痛いだけで、醒めません・・!」
「痛いのに、嬉しそうな顔してんじゃねーよ・・・全く」
だって、嬉しいんだから仕方ありません。
「あー・・なんでこうなってるのかわかんねぇけど、那月。どこか異常ないのか?」
抱きついていた那月を一旦離して全身をチェックする。
「大丈夫だよ。それより、ひょっとしたらまた僕が原因かもしれない」
「え?」
「さっきハルちゃんにも話していたけど、僕さっちゃんに言いたいことあって、会いたかったんだ。ずっと」
「・・・・・・・・」
那月くんは、砂月くんに向きあいその姿をまっすぐ見つめていました。
さっきまで聞こえなかった波と風の音が遠くで聞こえてきます。
静かなその空間に那月くんの綺麗な声が響きました。
「さっちゃん・・ううん【砂月】、今まで僕の勝手でずっと傷つけてきてごめんなさい」
「な・・・!」
「聞いて。僕の弱い心が逃避の為に君を身代わりにして、挙句ずっとそれに気付かずにいた。
その間ずっとずっと砂月が嫌な思いをしていたのに」
苦しげに顔を歪ませて告白する那月くんに、砂月くんは顔を青ざめ首を振る。
「違う・・!それでいいんだ!俺はお前のためなら・・」
「うん、でも君の存在に気が付いた僕は、次第にどこか怖くなっていったんだ」
「!!!」
それは、砂月くんにとって予想外の言葉だったようで。
青ざめたまま、どこかショックを受けたように固まっています。
「どうして自分がもう一人いるんだろう?どういう時に入れ替わってるんだろう?」
「・・・・・」
「記憶がないから最初さっぱり分からなかった。でも・・気配があった。いつも僕を心配し、守ってくれる気配が。そしたら具合が悪くなってきた時とか、急に記憶が途切れてることに気が付いたんだ」
「・・・・・・」
「その意味を考えた時、僕は恐ろしい事に気が付いてしまった。どういう時に砂月が表に出てくれているのかを」
「・・・・なんで気づいちまったんだよ・・・」
小さい声で苦しげに砂月くんが呟く。
「ごめん。でも気が付いてから僕は、砂月に守ってもらえる安心感と嬉しさ、同時にそうさせている罪悪感が渦巻くようになったんだ」
その話に私はなるほどと思いました。
今年に入ってから那月くんの消耗が激しく、入れ替わりが頻繁に起こっていたのは、忙しいから疲労のせいかと思ったけれど、
那月くんの心の状態が既に二つの感情で摩耗していたからだったのでしょう。
砂月くんも、そのことに気が付き驚愕の瞳で那月くんを見つめています。
「自分が中に居る時、それは砂月が僕の代わりに嫌な思いをしているかもしれないことを思うと、替わられたくなかった。
・・・でもそのことが、砂月を失うことに繋がるなんて思わなかったんだ・・・」
「那月・・・・」
「あの日、目が覚めて君の気配がどこにもなくて本当に悲しかった。ハルちゃんが居てくれたから何とか前に歩き出せたけど、それでも砂月。僕は君もいないと駄目だよ」
「!!・・・そんな・・・ことをいうな・・・・那月」
「どうして!君が居ない時ずっと心に穴が空いた感じだった。前を向いて生きるって決めたし、もう守ってくれなくていい。
ただ傍にいてほしいだけなんだ!」
「那月・・お前が強く生きれるならそれでいい。お前を守らないなら俺の存在価値は、もう・・ないんだ」
その言葉を聞いた時、私の中で何かが弾けました。
「そんなことないです!!」
「ハルちゃん」
「春歌?」
「砂月くんの存在価値なんて、大ありです!あなたには那月くんの本当の声が聞こえてたはずです。ずっと呼んでました」
「・・・・・・・・・・・・そうだったな。時計から・・俺を呼んでいたな」
「さっちゃん・・・・!うん、呼んでた・・・!」
「・・・・・・・・。俺だって・・・消えたいわけじゃない。できることなら・・・・・」
「できることなら・・・・???」
那月くんが期待に満ちたまなざしで砂月くんに詰め寄る。
砂月くんは観念したかのように頭をかき、ため息を一つつくと私達をまっすぐに見て言った。
「出来るなら、お前達の傍で共にありたい」
そう砂月くんが言い放った途端。
急に砂月くんの身体がほのかに発光しだして、私達は二人して焦ってしまいました。
「!!!!」
「だめ・・・!!消えないで・・・!」
「さっちゃん・・っ!行かせない・・・!」
私達は両側から砂月くんの腕に掴まり、離さないという意思を込めて空に願いました。
すると発光が収まると共に、砂月くんの姿も消えてしまいました。
腕の中の質量が、突然すっとなくなってしまったのです。
「そんな・・・!」
「どうして・・・さつk!・・・っ」
呆然とした私の横で、那月くんが空に向かって大声でその名を呼ぼうとした瞬間。
那月くんのもごもごとした声と、砂月くんの凛とした声が耳に届きました。
「・・・ここにいる。ちょっと待て・・・・んっ」
驚愕したまま、大人しく二人で待っていると、砂月くんはふわりとその姿を現してくれました。
先ほどと同じように現実感に乏しく、少し透けていますが、間違いなく砂月くんです。
「「よかった・・・!」」
二人して安堵のため息をつく。
すぐさま那月くんが砂月くんの腕を取り、もう片方の手で私の手を握りました。
「これで、よし」
「よし、じゃねーよ・・全くお前は・・・」
那月くんの行動を見て苦笑する砂月くんですが、その表情はどことなく嬉しそうです。
「だって・・二人とも、僕の傍にいてね・・・」
「ずっと、いますよ。安心して下さい」
「・・・しょーがねぇからいてやるよ、那月。お前は寂しがり屋だからな」
「うん・・!二人とも大好き!!!」
そう言ってにっこりと笑う那月くんを見て、ようやく心から落ち着きました。
懐中時計を見て悲しそうにしている那月くんを見るのは本当に辛かったです。
でも、今ようやく。本当の意味で笑顔になってくれました。
砂月くんのあの日の願いも・・・ようやく叶った気がします。
「どーでもいいが、そろそろ中に入れ。風邪をひくぞ」
「ああ、そうですね。部屋に戻りましょう」
「はい!」
お部屋に入る前、振り向くとそこにはまだ満天の星が煌めいています。
(音楽の神様、那月くんを笑顔にして下さってありがとうございました・・・!)
サザンクロスが輝く満天の空の下、私と那月くんの願いは叶いました。
happy
end...
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お疲れさまでした。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
何て言うか、失敗しました(いきなり)
ハルちゃんの一人称難しいです・・・読みにくくてすみません。
そして意味不明の内容です・・
ただ、那月と砂月が両方存在してる状態にしたかっただけですww
3人で幸せ。理想のEDです。