◆この話は、2003.4月のBLオンリーで前編を、5月のスーパーC.Cで後編を含めた

完結編として、サークルで販売していたSSになります。

◆和希×啓太なんですが、理由あって和希が啓太を避けてるせいで、

前編は和啓らしくないというか・・他の会計部や王様が出張ってます(*^_^*)

後編は和希が啓太を避けていた理由を一応書いたのですが・・

こいつら、馬鹿です。(←馬鹿なのはお前だ・・)

 

◆以下は、後編からの抜粋になりますが、「これの前後が気になるな〜」と

思って下さる方がいましたら、嬉しく思いますVV

 

 

『真夜中の訪問者』

 

啓太が夜の道を学園に向かって歩いている頃。

遠藤和希はサーバー棟最上階の理事長室に居た。

 

『いくら啓太でも、そろそろおかしいと思ってるだろうな・・』

 

深い溜息と共に自分の行動を省みると、思い当たる節が多過ぎて、自己嫌悪に陥りそうだ。

『自ら招いた事態とは言え、厄介だな・・。』

自分の中の理想と現実が、離れがたい物になっていると気付き、目を閉じて、一層深く椅子に沈み込んだ。

 

 

 

事の発端は、3日程前の出張での出来事であった。

その日、和希はベルリバティスクールの理事長としてではなく、鈴菱財閥の人間として、

医療関係のコンベンションに出席していた。

財閥の母体であったベル製薬は、研究所をスクールと同じ敷地内に持ち、

現在の管轄責任者は和希が兼務しているのである。

 

このように、和希は『遠藤和希』という学生の顔と、『鈴菱和希』という財閥の御曹司としての顔を

使い分けながら、毎日の激務をこなしていた。

この日も滞りなく公務を終えて、学園島に戻ろうかというその時、一人の男が、和希に声を掛けてきた。

 

「これはこれは、鈴菱の。もう、お帰りですかな?」

 

威圧感のある声に、振り向かずとも相手が分かってしまった。

製薬業界第二位である海棠製薬の専務だろう。

ベル製薬とはライバル関係にあり、あまり友好的とは言えない間柄である。

声を掛けられた以上、無視するわけにはいかない。

気付かれないように、小さく溜息を吐くと無理やり笑顔を作る。

「どなたかと思えば、専務。ご機嫌麗しい様で何よりです。」

振り返ってみれば、想像通りの人物がそこに居た。

だが、いつも秘書やら顧問弁護士やら取り巻きが付いているのだが、今は見当たらない。

「別に麗しくはないが、そう見えるのかね?」

「ええ。それより、お一人でいらっしゃるとは珍しい。私に何かご用でも?」

「御用というほどの物も無いんだがね・・。」

そこまで言い、専務はちらりと和希の斜め後ろに視線を向ける。

そこには和希の秘書が立っている。

つまりは、『人払いをしろ』と暗に言ってきたのだ。

気に食わない相手だが、聞かないわけにもいかず、目で秘書を下がらせると、改めて口を開いた。

 

「それで、ご用件というのは?」

「今日出展していた、ある団体について、個人的に君の意見が聞きたくてね。」

ある団体、というのは和希にも察しが付いた。

医療器具メーカーとして出展しているが、母体がとある新興宗教団体だとの噂を耳にしている。

「ある団体、とは大体想像付くのですが・・・・そういう貴方のご意見を先にお伺いしたいですね。」

口に微笑を乗せたまま、相手を鋭く見返してやる。

「ククッ、これは手強い・・・。まぁ、君の口から出た言葉は、そのまま公的発言となってしまうから、止むを得んな。」

喉の奥で薄く笑うと、答えは判っていたかのような発言をして、和希を見る。

「これは私の個人的意見だが、あのメーカーを野放しにしておくと、後々厄介な事になるだろうと思っておるよ。」

「・・・・。確かに。母体が宗教団体と聞きましたが・・・。」

「本当の事だ。認めてないし、証拠も無いがな。宗教法人として認められれば、母体の納税義務は発生しない。」

「・・・社員が信者なら、人件費も掛かりませんね。」

 

ライバル会社と言えども、業界全体を揺るがす問題に対しては会社を超えて取り掛からねばならない。

新しく出てきた問題にいち早く手を打つべく、持ち掛けてきた提案であった。

この提案は受け入れた方が良いだろう。

「わかりました。この件に関してはもう少し詳細を調べてみる必要がありますね。」

「うむ。こちらも、社長に上げるつもりだ。時間を取らせて済まないな。」

「いえ、お気になさらず。」

いつも尊大な態度で和希に接している専務が、済まない等と口にするとは珍しい。

和希は嫌な予感がして、その場を足早に立ち去ろうとした。

 

・・・が、その瞬間。

「ところで、御曹司殿。」

いつもの嫌味を含んだ口調で呼び止められる。

口に薄笑いを浮かべ、和希を見ている。

「何でしょうか?」

「いや、最近の君の活躍ぶりが目覚しいので、気になってね。」

『そんなの気にするな!』と和希は心の中で強く叫んだが、目を細めて先を促す。

「先日うちの秘書が君を街で見掛けたそうだが、友人ととても楽しそうにしていたとか。

珍しいじゃないか、秘書君以外に年の近い友人など。」

『・・友人?』

何のことを言っているのか分からず、疑問顔で眉を顰めると、専務は一枚の写真を見せて来た。

 

そこに写っているのは、和希と啓太だった。

 

「!!」

先週、確かに街に二人で出掛けた時のものだ。

秘書に見られていたとは・・。海棠製薬の本拠地は和希たちの地域とは離れた地方にある為、

街で会うなど考えていなかった。

『何人秘書いるんだよ・・』と内心で舌打ちしながらも、冷静を装い、微笑んでおく。

「ああ、先日買い物に出掛けまして。これは私用ですから友人とね。貴方とお会いする時は公用ですから、

いつも秘書と共にいますが、そうでない時もあるのですよ。」

「ほう・・それはそうだろうな。それにしても、君がこの様な顔をするとは・・・・

ずいぶんとこの『友人』が気に入っておるようだな。」

「・・・・・・。」

和希の中で危険信号が点滅する。

 

 

知られた。啓太のことを、知られてしまった。

写真まで持ち出してきて、一体何が狙いなのか。

 

 

「ひょっとして・・・次の秘書候補ですかな?」

探るような目付きで聞いてくる。

秘書の能力は、主人の能力を少なからず左右する存在だ。

優秀な秘書が付くという事は、それだけで主人の戦闘能力も上がり、敵にとっては厄介な存在である。

もし、この写真の少年が鈴菱の秘書候補なら、早目に手を打とうという魂胆であった。

この世界では、優秀な人材を引き抜きしたり、潰しに掛けたりなど、日常茶飯事である。

また、専務はこの写真を見せる事で、和希の反応を確かめ、この行為によって和希への、

心理的牽制を掛ける事を狙いとしていたのだ。

 

専務の思惑に気が付いた和希は、自分が想像した最悪のシナリオまでに至ってない事に安堵しつつも、

苦々しい気分で答えた。

「残念ながら、はずれです。それに私には既に二人も優秀な秘書が居てくれますのでね。

これ以上は必要ないでしょう。」

「ほう・・。これは、ずいぶんとあの二人を信頼なさっている様だ。」

「ええ。長いこと共に居りますので。」

「・・・・。まぁ、こちらとしても君にこれ以上優秀な部下が付いては敵わんから、探りに来たのだが・・・」

 

あっさりと本来の目的を白状して、和希の真意を確かめようとする専務だが、

和希は分かっていたかの様に薄く笑って言葉を返す。

「・・ご謙遜を。こんな若輩者を探ったところで、何も出やしませんよ。」

「フッ。・・・そういう事にしておこうか。それでは、この辺で失礼させて頂くとしよう。」

得たい情報を得たと判断したのか、専務は踵を返して歩き出す。

「お気を付けて。」

和希がやれやれと一息ついたその時、専務が振り返り言ってきた。

 

 

「そういえば、あの少年。」

「え?」

「秘書候補で無いなら、・・・・君の何だ?」

 

 

『!!』

和希は専務のその言葉に衝撃を受けたが、何でも無い顔を作り、答えてやった。

「友人です。」

「・・・・『友人』ね。せっかく出来た友人だ。大事にしたまえ。」

意味深な笑みを浮かべた専務は、はははと豪快に笑いながらその場を去っていった。

 

 

何て事だ。よりによって、あの専務に。

啓太の存在を知られたばかりか、自分と彼との関係を疑っている。

 

和希は今まで財閥の跡取りとして教育を受ける為に、普通の学校には通ったりしておらず、

年齢の近い友人が少なかった。

更に、幼少の頃にアメリカに渡っている為、日本には殆ど居ないと言ってもいい。

常に大人の世界で仕事をしている和希の傍には、確かに現在の秘書くらいしか歳の近い者が居ない。

専務にとって啓太と居る和希を珍しく思うのは当然の事であった。

「くっそ。あの狸じじい・・・っ」

専務の去った後を忌々しげに睨み、和希も会場を後にし、駐車場へ向かった。

 

 

 

 

◆ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

 何か、勝手に専務とか作ってしまいましたが、「理事長な和希」っていうのが

 書いてみたくてこうなりました。

 そうは見えないけど(失礼)大人としての和希は、どろどろした仕事の交渉とかも

 飄々としながらこなしてて欲しいナ・・と思いつつ捏造(笑)

 

 

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