【ドライバーズ・ハイ】 後編

 

 

 

 

 

学園島を抜けて、高速に上がるジャンクションが近くなると、車の通りも多くなり

普段と全く違うその風景に、つい興奮してしまう。

「やっぱり、車があるといろんな所に行けていいよな〜」

「そうだな。今はほとんどの地域が道路で繋がってるから、行こうと思えば何処でも行ける。」

「そうだよな〜。・・あ、高速・・?」

話をしている内に、高速道路へ上がる為のゲートをくぐり、チケットを手渡された。

「ごめん、啓太コレ持ってて?」

「うん。」

「ちょっとスピード出るから・・・気をつけて。」

そう言うと和希は、鋭い目でバックミラーを見つつ、合流助走路を走り出した。

 

「わ・・!」

高速に合流した途端、スピードが今までの比じゃなく速くなったのが分かる。

メーターを見ると、100キロになろうとしていた。

「ちょ、ちょっと・・和希?100キロだよ??」

「うん。・・あ、ごめん。怖いか・・?」

表示の速度に驚いてそう言うと、和希は当然のように返事をしたが、

啓太が高速に慣れてない事に気が付いたのか、少しスピードが落ちた。

「いや・・怖くは・・ないんだけど、大丈夫なのかと思って。」

「ああ、高速は見てると分かると思うけど、その名の通り、速い速度でしか走れない道路なんだ。

だから、この位で丁度良いんだけど・・」

そう言って、こちらを見ると心配そうに「気持ち悪くないか?慣れてないと気分悪くなったりするらしいから」と声を掛けてくれた。

「うん。大丈夫。慣れてきた。」

「そっか、良かった」

 

 

 

不思議だ。

こんなに速く走ってるのに、まだ追い抜かれたりする。

しかも、前を向いてるとあまり気が付かないが、真横を見ていると、すごい勢いで景色が飛んでいるのが分かる。

突然視界が、グレーの壁になったり、工場地帯になったり、テーマパークが見えたり・・。

ゲームの中で見た景色とは違うけれど、同じような感動を味わえた。

 

 

 

ひょっとしたら、時間の流れもこんなカンジで途切れる事無く、続いてるんだろうか。

早く。とても速く。何時までも。何処までも。

 

 

 

視界がまた開けたと思ったら、海が見えた。

「和希・・!海だ!」

「ああ、この辺の方が、景色的には綺麗だから、見せたくてさ。疲れてないか?」

「全然!・・・・和希、窓開けてもいい?」

「いいよ」

窓を開けた途端、流れている風が潮の香りと共に車へと入ってきた。

 

 

 

 

流れる景色。

流れる風。

流れる時。

 

 

 

 

啓太の中に、気持ちのいい流れが入り込み、暖かい何かが生まれた。

 

 

「啓太、ちょっとこの辺で降りようか」

そう言って和希は高速を降りて、広い駐車場に車を止めた。

車はたくさん止まっているが、人の気配がほとんど無い。

少し離れた場所に、コンビニが見える。

エンジンを止めると和希は、ひとつ深呼吸をして啓太の方に向き直った。

「どうだった?」

「うん。凄く・・すごく気持ち良かった・・。」

「そっか。なら良かった。」

そう言って、和希は背もたれに寄り掛かり、満足そうな笑顔を見せた。

 

 

いつも、仕事と学生との両立で忙しい和希。

本来なら、今日は自分の部屋でのんびり休む事が出来たのに。

 

 

「啓太、喉渇かないか?ちょっと俺買ってくるけど・・」

「うん。あ、その前に・・・和希。」

外に出ようとした和希を呼び止めて、腕を引っ張る。

「啓太・・?」

バランスを崩してこちらを向いた和希に、啓太は・・・

 

 

 

 

キスをした。

軽く、触れるだけだけど。

 

 

 

 

「!!!!!」

突然で、予想もしてなかったせいか、和希は目を見開いて驚いている。

そんな和希を至近距離で見つめたまま、啓太は微笑んだ。

「ありがとう、和希。」

さっき、啓太の中で生まれた暖かい「何か」。

それは「感謝の気持ち」だ。

和希に感謝。

焔さんに感謝。

静さんに感謝。

そして、自分の運に感謝。

「啓太・・・。」

「あっ・・!じゃぁ俺が・・俺が買ってくるから!」

啓太は、はっと我に返ると顔を真っ赤にし、そう叫ぶようにして車を出て行った。

 

 

 

「ちょ・・!啓太!!・・・・・・・・まいったな。」

運転席に座りなおし、天を仰いで深く溜息を吐いてしまう。

何て事をしてくれるのか。

声にならないほど、愛しい。

この気持ちはもう止まらない。

止められない。

あんなことをして、啓太はきっと今頃どんな顔をして戻ろうかと思案してるに違いない。

そんな事を考えて、和希の顔に笑みが浮かぶ。

「帰ってきたら・・・・どうしてやろうかな。」

そう呟いて、目を閉じた。

 

 

 

 

その頃、啓太は和希の想像どおり、自分の行為に対して一人で照れていた。

「あ〜〜、どんな顔して車に戻ろう・・」

きっとにやにやと笑いながら、からかってくるに違いない。

それとも、あれこれと不埒なことをしてくるかも・・・・・。

『だ・駄目だ、駄目だ!!』

自分の想像に頭を振って否定する。

いくらなんでも、誰が通るか分からない公共の場所でそんなことはしないだろう。

・・と思いつつも、和希ならやりかねない・・・と一抹の不安を覚えてしまう。

しかし、そんな想像が出てくるなんて自分もどうかしている。

何だかんだ言って・・・・・嫌ではないのだ。

 

 

 

そんな事を考えつつ車に戻ると、和希は運転席で眠っている様だった。

緊張の続くドライブは和希を疲れさせてしまったのだろうか。

助手席に座り、顔を覗き込む。

 

「・・・和希?」

「・・・・おかえり。」

 

その瞬間、和希は目を開け笑ったかと思うと、手を伸ばして啓太を抱き締めた。

「つかまえた〜」

「!!和希!起きてたのか??」

「啓太があんな可愛いことしてくれるから、想像しちゃって・・」

「〜〜!!!!!」

何を想像したんだ、何を!!!!

頭に血が上って顔が上げられない。

ここで「しよう」とか言われたら、きっと自分は拒みきれなそうだ。

抱き締められている感触が、自分の想像を思い起こさせて落ち着かない。

啓太はこのままじゃマズイと、抵抗を試みてみる。

「か、和希。そろそろ戻らないと、時間が・・・」

「このまま・・・帰りたくないな。」

 

ああ、やっぱり。

俺だって・・こうしてるの気持ち良いけど・・

でも、やっぱり帰らなきゃ。この車だって、焔さんのだし。

「何言ってるんだよ。戻らないと、静さんも焔さんも心配するぞ?」

「・・・・・・分かったよ。」

そう言って和希は深〜い溜息を一つ吐くと、抱き締めている腕を緩めた。

緩められた腕にほっとしたのも束の間。

体を離す際、和希は啓太の耳元に爆弾を投げ込んだ。

 

 

 

 

 

「でも今夜は・・・眠らせないから。」

 

 

 

 

 

!!!!!」

ぞくっとする低い声で、そう囁いた和希は、艶のある視線で啓太を一瞥した。

そんな視線で射抜かれたら、もう。

一瞬にして体が沸騰し、頭のてっぺんまで真っ赤だろう。

「な・な・・!!」

どうしてこういう事をさらりと言えるのか。

言い返す言葉も出ずに口をぱくぱくさせていると、和希が近づいて目蓋に軽くキスをした。

「!」

そのまま一つウインクをすると何事も無かったかのように、運転席に納まりエンジンを掛ける。

「さて。じゃ、帰ろうか。」

声も出ずにただコクコクと頷くと、和希はふっと笑って車を発進させた。

 

 

 

恥ずかしくて、気まずくて黙りこくっていると、和希が話し掛けてきた。

「啓太。疲れたなら、眠ってもいいぞ?」

「・・え?大丈夫。疲れてないよ。」

「そうか?」

「和希こそ・・ごめん。運転させちゃってるから・・」

「いや、それは気にしなくていい。・・でも残念だな。」

「残念?」

怪訝な顔を向けると、和希はこちらを向いてにっこり笑う。

「眠ったら眠ったで、色々と楽しみが・・・」

「色々って!!?」

「ハハハ、冗談、冗談。」

「お前なァ・・・」

冗談に聞こえないから、怖い。

 

でもやっぱりこんな時、和希の優しさは大人だと思う。

気まずくて話しかけるタイミングを失ってしまった自分。

そんな空気を読んでくれる和希。

同じ男として、こんなに差があるなんてちょっと悔しいけど、

そんな和希に好かれてると思うと、嬉しい。

運転する横顔を見つめながら、ひっそりと笑う。

 

「和希、ありがと。また時間あったら行きたいな」

「ああ。啓太の行きたい所なら、何処へでも連れて行ってやるよ。」

 

 

 

 

 

連れて行って。何処へでも。

駆け抜けよう、時間切れまで。

車という切り抜かれた空間で、

いつまでも どこまでも。

 

 

 

 

貴方と。

 

 

 

Happy end


 

お疲れ様でした。

な・長かった・・・!(T_T)

何が書きたかったんだろう・・・・。(謎)

ドライブをする二人と、秘書二人でしょうか。

和啓は対等な関係が望ましいのに、結局和希を大人にしてしまうのは

私の願望だからかもしれません・・くっ。

秘書は、「真夜中の訪問者」で出てきた二人と同一です。

少し、設定を考えてしまったので(笑)

また出てくるかもしれませんvv

 

 

 

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