◆この作品は、2003年2月に私が初めて書いたSS(らしきもの)です。
書いてすぐ、友人に押し付けてしまったシロモノ・・なので、
作品自体は、友人のサイト「月の砂漠」にあります。
◆下記は本文よりの抜粋です。
もし、興味が沸かれましたら続きも見てやってくださいませvv
◆◆◆ COCOA HEART ◆◆◆
「??・・なんだろう・・?」
啓太は歩きながら、ふいにそう思った。
良く晴れた2月の日曜日。
啓太は今日、新作のCDなどを買うため久しぶりに学園島を出て街に遊びに来ていた。
いつもなら親友の和希や、恋人関係にある七条と共に来ることが多いのだが、
今日は2人とも多忙で都合が付かなかったので、啓太一人で来ている。
「たまには一人でのんびりするのも悪くないかな・・?」
和希は、ああ見えて世間一般の青少年の感覚とは少々(?)ずれているところがあるし、七条と出掛けると、
傍に居るだけでどきどきしてしまい、緊張して「のんびり」とは程遠い状態だったりする。
情けない・・とは思うが、どきどきするものはしょうがない。
七条はいつも落ち着いていて、余裕すら見えるのがちょっと悔しいぐらいである。
そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、ふと違和感を感じた。
「・・なんか、いつもより女の子が多い・・?」
気のせいではなく、女の子の声がそこここから聞こえている。
街路にひしめく店々が賑わっており、女の子が群がっていた。
「?バーゲン・・かな?」
何とはなしにそちらを見やって、あるお店の看板が目に入ると、啓太はこの賑わいの原因を知ることができた。
『バレンタイン・フェア開催中!!』
「!!・・バレンタイン・・!!」
そうなのだ。
世間様では2月14日まであと一週間というこの時期、路面店やデパートでは特設コーナーを設けて、
お菓子業界が一丸となり、チョコレートを売りまくっているのである。
島の中にある全寮制男子校などという、世間と隔絶された世界にしばらくいた啓太は、そんな行事があったことをようやく思い出した。
「そっか・・そんな時期なんだっけ・・。」
赤やピンクのリボンで彩られたお店の前では、女の子たちがうんうんと悩みながら、一生懸命にチョコを選んでいる姿が見える。
そんな彼女たちを見て、啓太は微笑ましい気持ちになりながらも、どこか切ないような苦いような気持ちも味わっていた。
『俺が女の子だったら・・こうやってチョコを買って渡したりできたのかな・・?』
甘いもの好きな彼だから。
渡したら、きっと喜んでくれると思う。・・女の子だったら。
『でも男からチョコなんて・・気持ち悪いだけだよな・・』
『俺だってもらうなら女の子がいいもんな(っていうか男からもらっても・・困るし)』
こんなとき、女の子は得だと思う。
お菓子業界の策略だろーがなんだろーが、こんなイベントを利用して大好きな人から、
特別の笑顔を得ることができる(かもしれない)のだから。
そんなことを思った啓太は自分が急に女々しくなったように感じ、華やかな女の子の群れから目をはずしてお店を横切ろうとした、その瞬間。
店員の声が啓太の耳に入った。
「告白だけじゃなく、大事な人に感謝の気持ちを伝える日ですから」
『・・え?』
振り向くと、店員は「そのためのアイテムの一つがチョコなんですよ。構えないで気軽に差し上げてはいかがですか?
例えば、こちらの商品は・・」などとアドバイスがてら、しっかり商品を薦めているのが見えた。
再び歩きながら、啓太はさっきの店員の言葉を思い出していた。
「感謝の気持ちを伝える日・・かぁ。」
なんだか心にもやが掛かったまま歩いていると、いつの間にか見知ったカフェの前に来ていた。
七条とデートの時に良く来るおいしいパフェのお店である。
「あ・・つい来ちゃった。今日はひとりなんだけど・・ま、いいか」
良く考えれば、男二人でパフェを食べてるよりも、男一人で紅茶を飲んでる方がよっぽど普通に見えるはずである。
この店は店外にちょっとしたテラスもあり、暖かい季節の晴れた日はとても気持ちよく休めるのだが、今日は2月上旬。
さすがに寒いので、テラスを横切り店内へ入る。
カランカランという鐘の音が鳴り、いらっしゃいませという店員の声と同時に、カウンターの中にいるマスターと目が合った。
「おや・・。いらっしゃいませ。」
一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔を見せてくれた。
店内を軽く見渡すと、窓際の席は埋まっており、マスターのいるカウンター席に行くと、その笑顔のままマスターが話かけてきた。
「こんにちは。待ち合わせでいらっしゃいますか?」
この店に来るときは大抵、七条さんや西園寺さんと一緒なので自然とそう思ったのだろう。
「あ、いえ。今日は一人で買い物なんです。」
「そうでございましたか。・・こちらをどうぞ。」
差し出されたメニューを見ると、新しいメニューが追加されていた。
『バレンタイン特別企画〜スペシャルチョコレートパフェ〜』
『2/1〜2/14までの期間限定商品!』
「ここでもそういう企画をやってるんだ・・?しかも期間限定!」
写真を見ると、プチシューが飾られ、チョコレートソースがたっぷりかかっていて、普通のチョコパフェよりも豪華である。
さすが限定商品。
『すごい美味しそう〜・・』
すっかりそのパフェに目が釘付けの啓太の頭上からマスターの声が掛かった。
「何になさいますか?」
その声でわれに返った啓太は、一瞬迷ってから、
「えっと・・ロイヤルミルクティーを・・・。」とだけ告げて複雑な顔をしたまま、メニューのパフェに視線を落とした。
「かしこまりました。・・・?伊藤様?」
複雑な顔の啓太に気が付いたマスターが声を掛けると、啓太は慌てて顔を上げ、
「あ・・!いえ。・・・新作のパフェ、すごいですね」
と、つい口走っていた。
「有難う御座います。せっかくのイベント事ですしね。普段こういったものを召し上がらない方にもご満足頂けるように頑張って作ったんですよ。」
「うん。見た目もすっごく綺麗だし、美味しそうです」
「それはよかった。・・その・・宜しかったら一度、伊藤様にも召し上がって頂きたいと思うのですが・・」
「え?・・・で、でも俺は男だし・・その・・バレンタイン用でしょう?・・これ。」
啓太の返事を聞いたマスターは軽く目を瞠り、先程の啓太の態度を思い出して言った。
「ええ。・・もしかして、パフェは気に入って頂けたのに、オーダー出来ないと思われましたか・・?」
「・・はい。だってバレンタインは女の子から男にチョコをあげる日でしょうし、男の自分がこれを頼むのは・・やっぱり・・・・」
そう言って、ちょっと悲しそうな顔をした啓太に、マスターは驚いて言った。
「そんなことはありません!もちろんイベント用に、と作りましたが常連の皆様に召し上がって頂けなかったら、こんなに悲しいメニューはありません。」
「え・・?」
「現に私が今作っているこのパフェはあちらの男性のオーダーですし」
そういって、マスターはちらりと目で啓太の反対方向の端のカウンター席に座っている、壮年の男性を見やった。
その男も常連客らしく、啓太も一度目にしたことがある人だった。
「そ・そうなんですか・・??」
啓太は驚いてマスターに問うと、マスターは笑顔で頷いた。
「ええ。ですから、もし宜しければ召し上がってみませんか・・?結構力作なんですよ、このパフェ。」
「は・はい!!・・実はすっごく食べてみたかったんです。」
「そうでしたか、良かった。じゃ、今お作り致しますからお待ち下さいね。」
満面笑顔になった啓太を見てマスターは嬉しく思い、同時に
『これは、メニューの文言を少し変更したほうがいいかもしれないなぁ。誤解で食べてもらえないんじゃ、悲しい。』
とこっそり思ったのだった。
「お待たせ致しました。」
啓太の目の前には『スペシャルチョコレートパフェ』と『ミルクティー』が置かれた。
「うわぁ・・・!!すごい!」
写真で見るよりもリアルに美味しそうなパフェを横から、上からしげしげと眺める啓太である。
「うん、豪華!・・いただきますっ!」
早速、チョコのかかった生クリームとプチシューを頬張ると、中からラム酒のきいた甘くないカスタードがとろりと出てきて絶妙の美味しさであった。
「〜〜〜!!んんん〜!」
「いかがでしょう・・??お気に召しますでしょうか?」
今は別の客にサンドイッチを作っているマスターが手を休めて聞いてくるので、啓太は思い切り首を縦にうんうんと振ることで、感想を伝えた。
満足してることが見て取れたのか、マスターは微笑んでサンドイッチ作りを再開した。
しばらく夢中でもぐもぐと食べていた啓太だったが、この場に七条がいないのが残念で、つい口に出して言ってしまった。
「七条さんにも食べさせてあげたいなー、きっと喜びそう・・」
すると、それを聞いたマスターが、
「近い内にまた、今度はお二人でいらして下さると嬉しいですね」
というのを聞いて、啓太は自分が心の中だけでなく、実際に声にだして言ってしまったことに気がつき、真っ赤になってあわてて言い訳をはじめた。
「あ、いえっ、その・・七条さんも甘いもの好きで、同志だから、そのっ・・!」
「存じ上げてますよ。七条様が甘いもの好きな事は。貴方のこともお好きみたいですけれど。」
「そ・そうですよね。・・・・・・えっつ!!!??」
マスターはにっこり笑って、さらりと爆弾発言をしたのだが、本人はさして気にしている様子はない。
だが、言われた啓太の方はちょっとしたパニックになっていた。
『し・し・知られてる〜〜??俺と七条さんの関係が・・!』
知られているも何も、このようなお店に男二人で足繁く通い、
あまつさえ「あーん(はあと)」などと馬鹿ップルよろしくパフェを食べっこしていたのである。
これで二人の関係に気が付かない方が、どうかしているというものだ。
顔を赤くしたり、青くしたりと忙しい啓太を見て、マスターは少々申し訳なさそうに、謝った。
「・・申し訳ありません。お気に障りましたでしょうか?私はあまりそういった事は気にしないものですから・・・。」
「いえ!!そんな、気に障ったりなんてしてません。そ・その、大きい声だしてごめんなさい・・。」
ようやく落ち着いて、赤くなりながらもそれだけ言うと、マスターは微笑んでくれた。
「いいえ。それより・・パフェはご満足頂けましたか?」
「はい!そりゃもう!下の方のスポンジがお酒の味がしたんですけど・・・」
「実はラム酒をしみこませて作ってあるんです。伊藤様は未成年でいらっしゃいますけど、
酔わない程度に入れましたので、大人の味ってことで・・」
そういって、マスターはいたずら好きの子供のような顔で笑った。
それを聞いて、啓太はますますこのパフェを七条に食べて欲しくなった。
「うーん・・いつ来れるかな・・。俺が器用でこういうものを作れたらいいのに・・。」
「作れますよ。材料と器具と食べて欲しい人への気持ちがあれば、誰でも作れます。」
ついこぼしてしまった啓太を見て、マスターはきっぱりと言うと一瞬思案顔になったが、提案をしてきた。
「そうですね・・・。作ってみますか?」
「え?で・でも・・」
「丁度こんな時期ですし、七条様に召し上がって頂くなら伊藤様からの手作りにした方が何倍もお喜びになられるのでは・・?」
『そっか・・!バレンタインだから・・』
マスターの提案は魅力的だが、果たして自分に美味く作れるのか?
七条は男の自分からそのようなものを受け取ってくれるのか?と不安がいっぱいである。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。マスターは「自分が教えるから」と言ってくれた。
本人もあまり気がついていないのだが、マスターは結構お人よしで世話好きの性格を持っている人物であった。
啓太はそんなマスターの好意を受け取り、七条に喜んでもらうための作戦を手伝ってもらうことにした。
作戦は、いたってシンプル。このお店で決行されることとなる。
・・・・次の日、寮内で七条を見つけた啓太は早速、昨日のお店で新作のパフェが出ていたことを話し、休日に一緒に行きたいと誘いを掛けてみた。
「そうでしたか。啓太君がそこまで言うパフェ・・気になりますね。」
「でしょ?それで・・やっぱり七条さんと一緒に食べたいんですけど・・次の休日、お忙しいですか・・?」
目を輝かせてパフェの説明をし、やっぱり自分と食べたいなどと嬉しいことを言ってくれる啓太に、
七条が適うはずもなく。
「わかりました。その日は伊藤君とデートということで・・。ふふ、楽しみですねぇ。」
啓太が眩暈を起こしそうな最高の微笑を見せて、七条は休日デートを約束してくれた。
・・・続く。
まだまだ続いてます(笑)
バレンタイン話で甘甘です。「この・・馬鹿ップルめ!!」と思いながらも、
書いていて幸せでした(笑)